宇宙の実
船曳 秀隆
真夜(しんや)の果てに
止まった時計を見続ける
恋人の眠りは光の中に吸い込まれて
時は太陽で埋まる
水の無い海を歩くように
風の無い砂漠に立ちつくすように
君たちの祈りにようやく気づいたんだ
神の蔓を巻き込む鳥を
空の化身がふと釣り上げると
ノアの海岸に架かっている穂の光が
神の息の根にそっと別れを告げる
僕たちはあの日からの祈りを止めてしまおう
世の首を断ち
地球よりきれいに飛ぼうと
少女がまとう人類の砂を脱がし
少年の細い足先から静かに吸って
新しく廻る海を敷こう
虚しさが逆流する方舟から
希望をあやす神々の生を残さない
宇宙の爪で宇宙儀を描き続けて
いつしか償うことすら要らない
宇宙の実をかじろう
その時五十億年の恋から醒める僕たちは
束の間の絶望を楽しめばいい
「宇宙の実」→「初出:『関西詩人協会自選詩集第4集』 2004年11月 詩画工房」